ランディスを巡る非公式情報

cyclingnews.comランディスのドーピングを巡る非公式情報が報じられている。
Exogenous testosterone in Landis' A sample
(mas.ciclismoに紹介あり)

ポイントは

    • サンプルAのT/E比は11:1と高値であった
    • 安定同位体質量分析装置(IRMS)によって、人工のテストステロンが発見された

という部分。
ただし前者は未確認情報で後者はレキップ紙によるリーク。

これらにより少なくとも疑いはより深まったと言える。


ただし、これらはあくまで非公式情報であり裏付けを欠いている。
また裏付けが取れたとしても、尿サンプルを用いた検査の意義を高めるものではないだろう。


いずれにせよ、サンプルBの結果が陽性ならば、速やかに二次検査に進むべきである。
ここで疑いが深まったとしても、それは本質的なことではない。
その理由はこれまで書いてきたことから明らかだろうと思うし、
あえて言えば、それが医学というものだと思う。


なお、mas.ciclismoには、ドーピング経験者の談話として、

パッチ式のテストステロンは前夜皮膚に貼り付けるだけで即効性がある。

とある。
これは薬理学的な「即効性」であり、たとえば最高血中濃度に速やかに到達する、
ということだろう。
実はテストステロンは内服でもパッチでもジェルでも4時間までに最高血中濃度に到達する。
速いだけなら内服がもっとも速いのだが、
内服の場合肝臓を経由するので効率が悪い(初回通過効果)、
などの問題点がある。
(以上、"Goodman&Gilman's The Pharmacological Basis Of Therapeutics 10ed."で確認)


この「即効性」で、前夜にパッチを貼れば翌日のトレーニングの効果は上がるかもしれない。
ただし、翌日のパフォーマンスを改善するかはまた別問題だ。
テストステロンには副作用として精神症状があることが知られている。
そこに巷間で言われている「攻撃性を高める」ということも含まれているかもしれない。
しかし思考や感情への悪い影響がなく、攻撃性が高まるだけ、
という都合のよいことにはたぶんならない。
問題になるとすれば17ステージの前夜にどうこう、ということより、
常用していたか、ということだろう。
(前後のテストをパスしている、というランディスの主張があるが…)
ちなみに常用していれば、内因性テストステロンの分泌が抑制されることも加わり、
T/E比はさらに上がると予想される。


なお、テストステロンは正式には性腺機能低下症の治療に使われる。
ドーピングとしての効果については、当然ながらそれよりもエビデンスが不足している。
(これはそれが正規の医療として行われないため当然である)
副作用のことを考えずとも、それが本当にパフォーマンスを高める効果があるのかが、
医学的には疑いを差しはさむ余地がある、ということだ。