ドーピングテストと健診

健康診断はスクリーニングテストだから、大きく網にかける必要がある。
たとえばガン検診はガンの人を見落としてはならないが、
そのために実際にはガンでない人も含めてごっそりガンの疑いをかけて、
二次検査を勧める。
二次検査は疑いを確定診断にする目的がある。
ガンでない人をガンと診断してはいけない。


そのために健康診断には感度
(ある疾患の人の何パーセントが陽性となるか:真の陽性/真の陽性+偽陰性
が高い検査が、
二次検査には特異度
(疾患でない人の何パーセントが陰性となるか:
真の陰性/真の陰性+偽陽性
の高い検査が当てられることになる。


さて、ドーピングテストというのは果たして健診・二次検査のどちらに相当するのか。
感度、特異度とも高い検査というのは複雑でコストがかかるし、本人の負担も大きいことがある。
もし、たとえばランディスが陽性と出たテストステロン/エピテストステロン(T/E比)検査
(外因性テストステロンが含まれれば値は大きくなる)の特異度が低く、
それが健診レベルのものだったとしたらどうだろうか。

たとえば胃ガン検診で胃透視*1で疑いがあるとされた人は胃カメラの検査をする。
確かな数字は覚えていないが、そのうちでガンである人は数百人に一人だったはずだ。
仮にこのレベルだとすれば、この段階でランディスをドーピング使用者として扱うわけには行かない。
それどころか、公表することすら問題がある。



サンプル二つについて行って再現性があれば、確からしさは上がるように見えるかもしれない。
二回の検査の内容については知らないので断言はできないが、これもあやしい。
大腸ガンの検診は2回の便ヘモグロビン検査で行われるが、これは実は感度・特異度とも低い。
(だからこれはその意義自体があやしい)

ちなみにテストステロン/エピテストステロン比のカットラインは以前は6対1だったのが
4対1に下げられたようだ。

分析機関から、尿中のT/E 比が4対1 を超えていると報告された場合には、その比率が生理学的・病理学的状態に起因するか否かを判断するため、必ず追跡調査を実施しなければならない。ただし、分析機関が、信頼のおける分析方法を用いてその禁止物質が外因性であることを示す違反の疑いのある分析結果を報告している場合を除く。(「世界アンチドーピング規定禁止リスト」)


感度は上がるが、偽陽性は増えて特異度は下がるだろう。
だからより健診に近くなった、ということは言えそうである。

*1:胃透視放射線被曝が大きいので個人的には勧めない。最初から胃カメラを勧める。胃ガンのうち、Borrmann4型(いわゆるスキルス)は胃カメラより胃透視で見つかるが、これは見つかってもほとんど手遅れだから健診で行う意味はないだろう。